僕たちは墜落している

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大雪の日

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 九州では珍しい大雪だった。

 息子にとっては物心ついてからおそらく初めて雪だるまを作れるほどの大雪だった。

 僕が物心ついてからもおそらく、一番である。

 息子は祖父と、つまり僕の父と3つ雪だるまを作った。不恰好だったが四歳児にしては上出来だった。息子は楽しそうに過ごしたと父から聞いている。子供の頃にこれほどの大雪を経験できた息子が少し羨ましい。

 僕は当然仕事だった。朝方は地面が凍結していたので、数人の同僚とタクシーで乗り合わせで出勤した。外の動きはないが、人は動くので僕の仕事はそれなりに忙しかった。普段造作もなく行えていることが、雪のせいで難しくなっていることも忙しさに拍車をかけた。夕方になり、肩にどしんと疲れが乗るのを感じて、窓の外を見るとまだ雪がしんしんと降っていて僕はうんざりした。

 子供の頃は僕だって雪を見てワクワクしていた。いつからそうはならなくなったのか。思い返そうともしたが、陳腐だし無益だしやめた。

 帰りはスタッドレスタイヤを履いた車を持つ同僚に自宅の付近まで送ってもらった。帰る頃には街灯の光に反射して眩しいくらいに雪は積もっていた。家に帰る数百メートルの間で僕の上着も雪で真っ白になった。紺色のダウンジャケット、似合うと思って買ったのに、少し小さすぎて不恰好だった。真っ直ぐに足跡をスタンプするときだけ少し童心に帰って楽しかった。

 家の玄関を開けて、上着の雪を落として、こたつに入る息子にただいまと声をかけた。それから風呂を沸かして、息子と入った。息子は雪だるまを作ったことと、寒くて左足の感覚がなくなったことをたっぷり時間をかけて話した。

「明日も雪積もるかな」

と湯船の中で息子は言った。

「積もるんじゃないかな」

 父さんは困るけど。とは言わずにおいた。

 息子を寝かしつけて、だいぶ体が暖かくなってからもう一度玄関を出て、外を眺めた。

 雪はまだ降り止みそうにない。

 

 明日も息子の希望は叶いそうだ。